四つのデイリー方式
前回は以下。
デジタル情報というのは、人間から見て輪郭や位置づけが曖昧なわけですが、そこに「一日」という単位を与えてあげると、ひとまず認識しやすい形になる。また、私たちは手帳のようなツールにおいて一日単位で情報を扱うのにも慣れている。なので、デジタルノートにおいて「デイリー方式」が起点となる、という話でした。
今回はそのデイリー方式の内実を検討していきましょう。
デイリーに何を書くか
私の広い定義に依ると、「その日のことを書く場所」があればそれはデイリー方式と呼べます。つまり、「毎日、その日用のファイルを作る」ことは必須ではありません。作ってもいいし、作らなくてもいい。これは結構大切なことなのですが、そこまで話を広げるとややこしくなってしまうので、いったん後回しにして、そこに何を書くのかを考えましょう。
以下の四つが想定できます。
メモ/inbox
日記/journal
業務日誌/log
着想/idea
ここで与えた名称は便宜的なものです。人によってどう呼ぶかは違っているので、その内容が何なのかに注目してください。
メモ/inbox
「あれ、やらなあかん」と思いついたとしましょう(なぜか関西弁)。それを書き留めておくのは、仕事術・ライフハックの基本のきです。
GTDという手法では、書き留める場所を一つにまとめます。思いついたものは、とりあえずその場所に置いておく。受信箱(inbox)と呼ばれる装置です。これは、野口悠紀雄の「ポケット一つ原則」にも対応するもので、場所が散らばっていると書き留めるときも後から探すときも困ることが多いので、まとめておけば便利ですよね、という話です。
このやり方は、inとoutが均衡しているならとてもうまくいきます。しかし、inが大きく、outが小さいときは「inboxぱんぱん問題」を生じさせます。あと、「処理しなきゃならんのだけども、どう処理したいいのかわからん」というものが残り続ける問題もあります。
そこで、デイリーメモ(Daily inbox)方式です。
ようは一日単位でinboxを分節化するわけです。その日に思いついた「あれ、やらなあかん」系メモをその日のページに書いていく。処理したら消す。処理できなかったらそのまま残る。
そうすると、新しい一日がきたらまっさらな「メモ欄」が手に入ります(あるいは目に入ります)。過去どれだけ”負債”を抱えていても心機一転一日がスタートできるのです。inとoutの均衡が崩れていてもまったく問題ありません(その状態そのものに問題がある可能性はありますが、世の中どうしようもない状態というのはあるものです)。
ポイントは、新しい一日で過去のメモが見えなくなったとしても、データとしてはきちんと存在している点です。ざっと過去のメモを見返したり、検索したりすれば見つけられます。どうしても必須なものはタグ付けするなどして目に留まりやすいようにしておく工夫もよいでしょう。
私たちは多くの「仕事」(やること、やるべきこと)を抱えているので、おそらく生活を助ける上で一番即時性が高いのがこのデイリー方式でしょう。
日記/journal
一番説明が不要なのがこれでしょう。だいたい「日記」というのは一日単位で書かれるものです。それをデジタルノートで行うのがこの方式。
ここでの「日記」は、書き手の心情を表すものを指していますが、心情は独立的に存在しているのではなく、だいたい何かの出来事にくっついているものが多いので(その人が精神世界だけで生きているならば話は別ですが)、出来事を書き留めることも行われるでしょう。
人によっては一日のタイムラインを文章で書きつづっていくものを指すかもしれません。そうなると次の「業務日誌/log」との境界線は曖昧になってきます。
なんであれ、「その人の一日」という心象を書き留めていくものがこのデイリー方式です。
業務日誌/log
人によっては、これまでまったくやったことがないかもしれません。自分の作業記録を一日単位で記述していく方式です。これが非常に強力です。
記録の粒度はさまざまです。午前・お昼・夕方くらいの緩やかな区分で書き留める場合もあれば、一時間単位やもっと細かい単位で切り分ける場合もあります。
すごく細かい作業を書く場合もあれば、ざっとやったことを書き留める場合もあります。何が正解というよりは、その人がどういう記録を欲しているかで適切さが変わってくる感じです。
「思ったこと」などを書くと日記成分が出てきますが、書くのが作業だけであり、プライベートな記述は峻別されるのが一般的です。(守秘義務などを除いて)他人に見せうるものが業務日誌で、あんまり見られたくないものが日記と区別してもいいでしょう。
ちなみに、「作業日誌を書く」ということをしなくても、一日単位で作業リスト(タスクリスト)を作り、それをこなしていけば、一日の最後にはそれが簡易の業務日誌になっています。デジタルであれば、まずリストを作り、そのリストに情報を増やしていきながら最終的にそれを「業務日誌にする」という運用がやりやすいでしょう。
(この方式に興味があれば『ロギング仕事術』をご覧ください)
着想/idea
何か面白そうなことを思いついたら書き留めておけ、というのは知的生産の技術の基本のきです。書き留めたことを後々活用するかどうかは問題ではなく、「自分が思いついているもの」に注意を向ける意味で、非常に大切な行為です。
その書き留め方にもいくつかの流派があり、その流派の一つがデイリー方式です。他にはどんな流派があるのかと言えば、
カード方式
ノート方式
あたりが主流です。デイリー方式はこの二つの折衷と言えるかもしれません。
カード方式は思いつき一つにつき「一枚のカード」を使います。アナログなら非常に贅沢(リッチ)なやり方です。ノート方式は、すべての着想を一冊のノートにまとめていきます。ぎゅぎゅっと圧縮です。
デイリー方式は「一日ごとに着想をまとめるページを分ける」というやり方なわけですが、これは結構デジタル的な感覚です。たとえば、ほぼ日手帳カズンのような一日のページが大きい手帳だと「一冊のノートにまとめつつ、ページの区切りは一日単位」になっている場合があり、ノート方式とデイリー方式が重なっています。
しかし、デジタルノートはその全体が「綴じられている」わけではなく、ページ同士は独立しています。その意味でアナログでやっている「ノート方式」とはズレがあるのです。アナログの感覚にがんばって寄せれば、ルーズリーフを使う方式が感覚として近いかもしれませんが、完全に同じというものでもありません。
いかにも中途半端な感じがしますが、まさに中途半端であり、この方式が一番運用が難しいです。困っている方も多いかもしれませんので、この方式については次回以降で詳しく検討します。
まとめ
以上、四つの方式について見てきました。
これらは排他的なカテゴリーというよりは、重なり合う部分を持つ領域のようなものです。実際、一つのデイリーノートに複数の方式を導入している方もいらっしゃるでしょう。
アナログノートであれば、どうがんばっても「一日ページ」に書けるものの量は限られています。すると自然と用途も限定されます。日記帳に日記とメモと作業記録と着想のすべてを書き留めることはできないでしょう。仮に書き留めるとしたら、それぞれから厳選した内容になるはずです。
一方でデジタルノートでは記述量の制限は(基本的には)ありません。だから、やろうと思えば上記の方式を複数、あるいはすべてを盛り込み、それぞれについて十全な記述をすることも可能です。よくデイリーノートのテンプレートが盛りだくさんになっている方を見かけますが、そういう運用をなされているのかもしれません。
仮にそうすれば、用途ごとにツールを分けることなく、すべてが一つのツール、一つのデイリーノートで運用できます。効率的です。
しかし、情報量が多くなってしまうことは避けられません。それに過去の思い出を振り返りたいときに、日記に+αとしてその日の長々とした作業記録が一緒に表示されて嬉しいでしょうか。
たとえば私は最近、新しい月の読書ノートを作成するときに、同じ月の三年分の過去の読書ノートを振り返るようにしていますが(連用日記のようなものです)、仮にその振り返りのときに読書以外のすべての活動が表示されてもあまり嬉しくないと思います。情報には用途、もっと言えば適切なコンテキストというものがある。
そうした観点から、上記の方式を分けるのか、合わせるのかを考えるのがよいでしょう。もっと言えば、「そもそも自分にこれらは必要なのか」も考える必要がありそうです。


